宮島の二つの顔

2024.10.09

磨墨ライカ先生

磨墨ライカ先生

厳島神社は、瀬戸内海に浮かぶ宮島(正式名称は厳島)にあります。潮にそびえ立つ朱塗りの大鳥居は、迫力満点です。また引き潮の際には大鳥居まで歩いて行けるようになるなど、潮の満ち干によって見える風景が変わるので、本当に自然と一体になった神社なのだなと感動を覚えます。

近年の観光ブームにより、この厳島神社だけがクローズアップされるようになりましたが、実は宮島そのものが神域(御神体)であり、厳島神社は宮島(厳島)のほんの一部にすぎません。平安時代末期に平清盛によって、現在の壮麗な社殿が建てられましたが、それ以前、太古から既に島は人々の信仰の対象でした。

その名残でしょうか、弥山(みせん)の頂上には巨石建造物群があります。そして島の原生林に手を加えることは現在でもタブーとされています。そのため、日本古来の植生が残っているはずです。少なく見積もっても2千年前の姿をとどめていると考えられます。瀬戸内海気候ですので、一概には比較できませんが、『古事記』や『万葉集』に出てくる植物と照らし合わせてみるのも面白いでしょう。

また島の風習も着目に値します。宮島には墓地もお墓もありません。戦前は耕作が禁じられていたため、対岸から船で渡ってくる物資が島民の食生活を支えていたそうです。これだけでも、宮島(厳島)全体が、精進と潔斎の島としての扱いを受けてきたことがわかりますね。

さて、あらためて厳島神社ですが、ご祭神は3柱あり、「宗像三女神」と称されます。
1)市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)
2)田心姫命(たごりひめのみこと)
3)湍津姫命(たぎつひめのみこと)

社殿や、その廻廊があまりにも壮麗なためでしょうか。参拝した私は、ついこれらの神様のことを失念しておりました。むしろ名前を与えられていない宮島の自然のほうが、八百万の神としてのパワーを発揮しているようにすら感じられました。

その意味でも、宮島観光は楽しいです。一泊すれば、鹿たちの声を聞くこともできます。あえて文字にすれば「ギーン、ギーン」とでもなりましょうか。不思議な、玄妙な声です。

これからの季節でしたら、猿丸太夫が詠んだ歌の世界を味わうことができます。

◎奥山に 紅葉踏み分け鳴く鹿の
      声聞く時ぞ 秋はかなしき

宮島(厳島)は春の桜も見事ですが、秋の紅葉も美しいのです。こうして書いていましたら、また行ってみたくなってきました。幾度行っても、飽きません。
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